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二刀流ブログ第10回  「これであなたも相続税評価の名人になれる! 土壌汚染地その1」

■環境調査報告書:「土壌汚染地であるかどうかのヒント」


今回は、二刀流ブログ第3回でご紹介した土地の相続税評価で揃えておくべき資料としてご案内した13.環境調査報告書についてです。

この資料は、評価しようとする土地が土壌汚染地であるかどうかを推測する手がかりになるものです。

ただ、土壌汚染についてはかなりマニアックな内容が含まれていますので、環境調査報告書を含めて土壌汚染という大きなくくりでQ&A形式かつ何回かに分けてなるべくわかりやすくご説明していきたいと思います。

■質問


私の父は、50年前からクリーニング店を営み、母と二人三脚で長男である私と妹の二人の子供を育てあげてくれました。

 

クリーニング店は、私鉄O線A駅から徒歩15分程度の起伏に富んだ住宅街に所在し、そこで母がとりつぎを、父がクリーニング作業を行っていました。

A駅は都心まで急行利用で50分程度で行けることから、周辺の人口も増えつづけ、クリーニング店も繁盛し、わずかではありますが、作業場も大きくなっていきました。

 

しかし、しだいにお客さまである住民の方々の高齢化が進み、ワイシャツ、スーツなどのビジネス関連の需要がじょじょに減りはじめました。さらに10年前くらいからは足腰に負担のかからない利便性の高い都心型マンションや介護施設などにうつる方々も増え、さらに経営はきびしくなってきました。

そのうえ昨年のはじめに父にがんが発見され、昔のようにバリバリ働けなくなってきました。

 

そこで、父はクリーニング店を閉じる決心をし、クリーニング店の土地建物を売却することにしました。

知り合いの不動産業者に相談したところ、周辺の土地利用状況や景気を考えるとクリーニング店として売るのは難しく、戸建住宅を分譲するハウスメーカーに売るのが最もよいだろうということで戸建住宅開発用地として売却することにしました。

 

しかし、閉じるにあたってはクリーニング店が土壌汚染対策法の特定有害物質使用特定施設だったため、いわゆる「土壌汚染地」であるかどうかについて指定検査機関の調査をしなければならなくなりませんでした。

調査をしたところ、排水溝を中心にトリクロロエチレンが基準値を上回っていることがわかりました。

 

その後しばらくして父のがんが悪化し、今年の6月に亡くなりました。

父の主な遺産はクリーニング店の土地(土壌汚染を考慮しない路線価評価額6,000万円)と建物(500万円)、自宅の土地(路線価評価額3,000万円)と建物(200万円)、預金が500万円です。

遺品を整理していたところ、クリーニング店の土地建物の権利証とともに指定検査機関が土壌汚染調査の内容について報告した「環境調査報告書」と同じ機関が作成した土壌汚染対策工事費用の見積書(見積額2,000万円)がでてきています。

預金が少なく、納税のためにクリーニング店の土地建物の売却は父の考えどおり進め、戸建住宅を分譲するハウスメーカーと売買契約をむすびました。

売買契約書では

1.本件土地の売買代金の最終金は2,000万円とする

2.買主が造成・建築工事を着工し、その造成・建築工事の障害となり得る地中埋設物、土壌汚染が存在しないことが確認された後、最終金2,000万円を支払う

3.本件土地について土壌汚染、地中埋設物等隠れた瑕疵が発見された場合は、売主の責任と負担において解決するものとする

と書かれており、実際に最終金の決済・物件の引き渡しにむけ土壌汚染対策工事が進められています。

 

このような状況のなかでもクリーニング店の土地の相続税評価額は土壌汚染対策費用などを引いてはいけないのでしょうか。

■回答


クリーニング店の土地は「土壌汚染地」であり、その最有効使用(最も高い価格がつきそうな使用方法)は戸建住宅地とみられることから、その土壌汚染対策費用の見積の前提となる措置(対策の方法)が除去措置であるのであれば、その費用見積額の80%相当額をクリーニング店の土地の土壌汚染を考慮しない相続税評価額6,000万円から控除できると思われます。

 

以下、順を追ってなるべく平易に解説させていただきます。

なお、各解説は私なりの理解で相続税の評価に必要な部分に限定した概説ですので、厳密な定義、解釈については専門家の方々の書籍などを手にとられることをおすすめします。

■土壌汚染の思い出


私が土壌汚染という言葉を実務ではじめて耳にしたのは、平成13年です。

まだ税務署を退職して1年目、大手不動産鑑定機関にいたころの話です。

とある人から「産業廃棄物置場で土壌汚染の疑いがあるので0円と評価して相続税を申告したいといわれているがこれについてどう思うか。」というものでした。当時はまだ不動産鑑定士になったばかり、「土壌汚染」ということばも不動産鑑定士第3次試験の受験勉強でさわった程度で、これといった実務の手引きもなく、「なんとか考慮しないでいけませんか」として逃げることばかり考えていたのを覚えています。

その1年後、土壌汚染対策法が公布(施行は平成15年)され、不動産鑑定評価でも土壌汚染の可能性の有無について調査しなければならなくなりました。

 

直後にある地方のガソリンスタンドや旧鉄道用地など「土壌汚染」について検討しなければならない不動産の鑑定を担当することになり、いろいろな役所などを右往左往。。。

当時、「土壌汚染地」又は「土壌汚染の疑いがある土地」についてやかまかしく減価(値引き)を主張したのは外資くらいで、地方のお役所では運用体制すら整っておらず、「水質汚濁防止法上の特定事業場のリスト」を確認したいと言っても、

 

「本当にうちの役所(課)なのかわからない」

「何のために必要なのか」

「これは個人情報に該当するので、情報公開条例に基づいて申請してもらわらないと見せられない」

「自分ではよくわからないので上司と相談してから折り返します」

など要を得ず、いろいろな窓口へ「たらい回し」。

 

午後4時50分くらいまでこれをやられ、直接の担当の窓口にたどり着いたときには午後5時を過ぎていて、「はい、また明日~」なんてことがしばしば。

 

そんな厳しさを味わいながら、少しづつ土壌汚染地の評価を学んできました。

 

では土壌汚染とはなんなのでしょう。

■土壌汚染


土壌汚染とは、土壌が人間にとって有害な物質(土壌汚染対策法の特定有害物質。以下「特定有害物質」といいます。)によって汚染された状態をいいます。

原因としては、工場の操業に伴い、原料として用いる有害な物質を不適切に取り扱ってしまったり、有害な物質を含む液体を地下に浸み込ませてしまったりすることなどがあげられます。

また、 土壌汚染の中には、このような人間の活動に伴って生じた汚染だけではなく、自然由来で汚染されているものも含まれます。

土壌汚染があっても、すぐに私たちの健康に悪い影響があるわけではありませんが、きちんと管理がなされていないと、汚染された地下水等を体内に摂取してしまったり、砂遊びしている子供が手についた汚染された土壌を口にすることなどにより人の健康へ被害が及ぶことがあります(※1)。

■土壌汚染の影響を土地価格から「値引き」する


土壌汚染の問題は、わが国においても明治時代から公害問題として認識されていましたが、土地の価格からそのリスクの分だけ「値引き」するという発想が本格的になったのはバブル崩壊直後のバルクセールが隆盛したころからではないかと思います。

 

バルクセールとは大量の不良債権などをまとめて投資ファンドに売却することをいいます。

バブル崩壊直後ですからわが国の銀行はどこもたくさんの不良債権を抱えていました。またその担保のほとんどは不動産です。

しかし、値上がりを前提に貸し付けていますので、担保価値の査定はろくに行われていないものも多く、まさに「玉石混交」です。

いいものもあれば、悪いものもある。

 

であれば、きちんと調査したうえで、

「価値のあるもの」

「磨けば価値がでるもの」(※2)

「価値がないもの」

を見極めたうえで、「価値がないもの」も含めて大量に買い、「価値のあるもの」は早く売却し、「磨けば価値がでるもの」は修繕を加えて高く売却すれば、高い投資利回りを確保できるという手法が流行りました。

「価値がないもの」が含まれているとはいえ大量に買うわけですから、多額のおカネが必要です。そのおカネをだせるような会社はわが国にはほとんどありませんでしたので、アメリカなど外国の資本が買い手のメインプレーヤーとなったわけです。

 

この「きちんと調査すること」を「デューディリジェンス」といいます。極めてざっくりと説明すると、適切なエビデンス、手法に従って対象となる不動産などの価値を評価することをいいます。

 

バブル時の日本では不動産のいいところばかりみて、土壌汚染を含めた、埋蔵文化財、事故物件、法令違反などの悪いところに目を半分つぶっていたわけですから、買い手である外資は悪いところをしっかり見ることに注力し、土壌汚染の存在が確認されたり、その疑いがあれば「値引き」の対象とされたのです。

 

ただ、当時わが国ではその「値引き」の方法が確立されておらず、評価を担当する外資所属の不動産鑑定士やサードパーティーである開業不動産鑑定士の「判断」によりばらつきが大きかったようです。

 

そこで、某大手不動産鑑定機関が米国における土壌汚染評価手法などをさきがけとして研究、紹介し、少しづつ体系化されて現在では土壌汚染対策の専門家の調査を中心にした評価方法が不動産鑑定評価の業界では確立されつつあります。また、平成15年2月15日からは土壌汚染対策法が施行されました。

 

このバルクセール以降の不動産実務の動きをうけて、相続税申告などにおいても土地の価格から土壌汚染地であることによる影響を控除して相続した土地を評価することが散見されるようになったこと、土壌汚染対策法が施行されたことをうけて国税庁は「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」(以下、「情報」という。)を公表しました(※3)。 

■情報


情報によればその趣旨を次のように説明しています。

「土壌汚染対策法が平成15年2月15日から施行され、今後土壌汚染地であることが判明し、相続税等の課税上問題となる事例が生ずることが考えられることから、土壌汚染地の評価方法の基本的な考え方を取りまとめることにした。」

 

とあり、

1.土壌汚染対策法の施行及びその概要

2.土壌汚染地の評価方法

3.その他

 について解説されています。

 

次回から、この情報に沿いつつも、冒頭の「質問」にあわせ実務に沿った説明をしていきます。

■参考


※1:土壌汚染対策法、環境省・(公財)日本環境協会 『土壌汚染対策法のしくみ』などを参考にした私なりの解釈です。厳密な解釈は各法令、専門機関などの書籍を参照してください。

URL:https://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/index.html

※2:「磨けば価値がでる」不動産のことを「バリューアップが狙える不動産」と呼んだりします。

エントランス改修や間取りの改修などで低稼働物件を高稼働物件にして、投下資本を大きく上回る価格で売るときなどに使います。

※3:資産評価企画官情報第3号、資産税課情報第13号(平成16年7月5日国税庁課税部資産評価企画官資産税課)

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