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二刀流ブログ第3回 「固定資産税評価明細書は不動産評価のトップバッター」

私は不動産貸付業を営む株式会社の専務です。

この会社はもともと社長である父が10年前に設立した会社で株式は全て父が所有していましたが、数年前から毎年私が贈与を受けて現在は父が70%、私が30%を所有しています。

会社はいわゆる資産管理法人です。

会社の主要な資産は父から譲り受けた賃貸アパート5棟(建物のみ)で、経営の実権は父が握っていました。私は専務という名前はついていますが、他の会社でサラリーマンとして勤務していることから平日は忙しく、父の会社についてはたまにアパートの維持管理業務を手伝う程度でした。

3か月前に父が肝臓がんで他界しました。相続人は長男の私と母、既に嫁いでいる姉です。

父にはこの会社の株式のほか、自宅土地建物、法人に賃貸している土地、個人名義の貸駐車場などがあり、相続税の申告は避けられない見通しです。

相続財産の大部分は不動産と不動産所有会社の株式ですので、相続税申告をするためには遺産分割協議のほか、不動産の評価をしなければならないと思い、法人税申告書等を見ました。そこには会社が所有している建物について記載されていましたが、代表的な地番だけが記載されていて、その明細はわかりませんでした。

会社の顧問税理士からは「まずは固定資産税評価明細をとってくれ」と言われていますが、これだけで評価できるものなのでしょうか

一応ホームページで公開されている路線価図をみると上記いずれの土地についても前面道路に路線価がついていて、路線価で評価しなければならないようです。

答(※1)

不動産の相続税評価をするために必要な書類は固定資産税評価明細書はもちろんそれ以外にもたくさんあります。

あらかじめその不動産に関する資料があればあるほど、「相続開始時点においてその不動産がどのような状況にあり、どのような特徴を有しているか」を知ることができ、結果として適正かつ迅速な財産評価及び相続税の計算を行う手がかりになります。

ですから、いきなり評価作業をしようと考えず、ご面倒でもたくさんの資料を揃えましょう。

■不動産の相続税評価に必要な資料


不動産評価に必要な主な資料は以下のとおりです。

「こんなに集めるのか~。。。」と思われるかもしれません(※2)が、それぞれに必要となる理由があります。

 

それぞれの資料について、複数回に分けてなるべく平易に解説します!

 

今回は1.固定資産税明細書について解説します。

 

1.固定資産税課税明細書

2.登記情報

3.公図

4.地積測量図

5.建物図面・各階平面図

6.住宅地図

7.地形図

8.境界確定図

9.測量図

10.地上建物の設計図書

11.地上建物の確認済証

12.地上建物の検査済証

13.環境調査報告書

14.都市計画情報等

15.土地賃貸借契約書

16.建物賃貸借契約書

17.土地の無償返還に関する届出書

■固定資産税評価明細書はどのうような資料か


固定資産税評価明細書は、毎年4月頃に市町村役場(東京23区の場合は都税事務所)から固定資産税の納付書と一緒に土地建物の所有者に送付され、「名寄帳」ともいわれています。ご質問の場合、お父さんが手もとに保管していた可能性が高いのでまずは探してみてください。もしお手もとにないときは、市町村役場の資産税担当に申請すればもらえます。

そこには、その年の1月1日においてその所有者が持っている

土地の所在、地番、地目、地積、固定資産税評価額、課税標準、固定資産税相当額など及び

建物の所在及び地番、家屋番号、延床面積、固定資産税評価額、課税標準、固定資産税相当額

など

が記載されています。

■固定資産税評価明細書の基本的な使い方


相続の場面では亡くなった人がその市区町村にどのような土地建物を所有していたのかを把握するために使います。

基本としてその市区町村に所有しているすべての土地建物が記載されていますので、網羅的に把握できます。

また、記載されている地番、家屋番号は登記されている地番、家屋番号と一致しますからこれを使って土地建物の登記情報、公図、地積測量図、建物図面・各階平面図を取得していきます。まさに不動産評価の「トップバッター」といえるでしょう。

■固定資産税評価明細書の知っておくと便利な使い方


さらに固定資産税課税明細書(以下「明細書」といいます。)の記載事項と登記情報の記載事項を照合することにより、実際の地積と登記地積の違い、実際の地目と登記地目の違い、未登記建物や増築が判明する手がかりになることがあり便利です。

 

例えば、

 

〇土地の登記地積が200㎡のところ、明細書記載地積は100㎡で現場で概測した結果も概ね同じだった。

→以前亡くなった父が測量をしており、市役所の資産税課に掛け合い明細書数量を補正させていた。

 

〇土地の登記では地番:123番4、地目:宅地と記載され「一つの宅地」であったが、

明細書では地番:123-4-1、地目:宅地、地番:123-4-2、地目:公衆用道路と「一つの宅地、一つの道路」

となっていた。

→現場確認したところ宅地の一部は他の宅地の一部と一緒になって私道となっていた(図1)。

 

〇明細書に、登記情報のない建物があった。

→現場確認したところ登記がなされていない建物があった。

 

〇建物の登記床面積が300㎡のところ、明細書床面積は330㎡であった。

→昨年リフォームしたときに浴室等を拡張するために増築したが増築登記をしていなかった。

 

これは、固定資産税評価は年1回一定の期間内に納税者から不服を申し立てる機会が与えられる(地方税法423①)うえ、市町村役場でも3年に1回「評価替え」という評価額を見直す手続きを行うことになっています(同349)が、登記は実質的に所有者の自主申請に任されているため地積の違いや増築があってもそのまま放置されているケースが多いためです。

しかし、固定資産税評価も絶対ということはなく、当初の情報のまま、現場と違うということはよくあるので過信は禁物です。

ですから、上記の例にあるように必ず現場確認などを通じて「現実の地積、形状、床面積などはどうなのか」を絶えずチェックすることが必要なのです。

【図1】

■固定資産税評価明細書の落とし穴


基本としてその市町村に所有しているすべての土地建物が記載されているのですが、共有名義の不動産の場合、納付書(明細書)は共有者の代表者にしか送付されないことがあります。例えば、亡くなった人が先代から兄弟姉妹と共有で相続した不動産、私道の共有持分は記載されていないことがあります。また、所有している者だけについて記載されていますので、土地を借りて借地権を持っていたという場合には記載されていません。

このときはその借りている土地の納付書(明細書)は土地の貸主に送られています。ご質問の場合にあてはめると、明細書は地主であるお父さんに送られてくるだけで、借地人である会社には送られてきません。

さらに、亡くなった人が先代から相続したけれども相続登記をしていない土地建物についても記載はされていません。

ですから、後で解説する登記情報の調査で隣接地の登記情報を取得したり、これらの情報と現場を照合したり、市町村に確認することなどを通じて把握漏れを防ぐ努力が必要です。

また、亡くなった人の実家などに「こそ~っ」と土地建物が隠れていることがありますので、その実家があった市町村に亡くなった人が所有者として登録されている土地建物がないか確認しておくと「ダメ押し」になりますので活用されることをお勧めします(※3)。

■まとめ


・明細書は亡くなった人の「不動産の一覧表」として使えます。

・登記情報記載事項と照合することにより、実際の地積と登記地積の違い、実際の地目と登記地目の違い、未登記建物、増築の存在を発見する手がかりを得られることがあります。

・借地人の手もとに借りている土地の明細書はありません。

・明細書とはいえ全てが網羅されているわけではないので、現場確認などを通じて、「把握漏れ」を極力なくす必要があります。

・亡くなられた人の実家などにある「隠れ物件」に注意しましょう。

※参考


※1:ご質問には不動産の相続税評価だけでなく、以下のような論点があります。

・お父さんの生前に行うべき(であった)対策(生前贈与、遺言など)

・遺言の有無と遺産分割協議(配偶者居住権など)

・不動産以外の相続財産(株式、預貯金など)の把握と評価

・生前贈与があった場合の相続税の計算

など

他の論点については別の回で解説します。

 

※2:これらが負担になると思われる方は迷わず、相続税評価の準備、確認ができる税理士のサポートを受けることをお勧めします。

相続税の申告期限は原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27①)。所得税の確定申告や法人税などの確定申告と比べると長く見えますが、その間に財産評価、遺産分割協議、相続税額の計算、納税方法の検討及び実際の納税をしなければならないわけですからやらなければならないことの多さを考えると非常に短いものです(図2)。

慣れていないとこの準備の段階で多くの時間を費やしてしまい、相続手続きの最終目的である遺産分割協議及び財産分け並びに相続税の計算及び納税方法の検討に十分な時間を割けません。

特に遺産分割協議、納税方法の検討に時間を十分に使えなかった相続案件は相続人どうし、お客様と税理士との間でとかく「気持ちのわだかまり」が発生し、「こんなはずではなかった。。。」と禍根を残してしまうことが多くなります。

 

※3:具体的には「課税台帳に記載がないことの証明」などを市町村の資産税担当で取得します。

【図2】

©新富税理士・不動産鑑定士事務所