相続財産の調査
■質問 二刀流ブログ第22回 遺言書からの続きです
私は横浜市に居住するサラリーマンです。
今年10月に東京都渋谷区に居住する父が亡くなりました。
先日、法務局から法定相続情報が送付されてきました。
遺言書はなく、遺産分割協議をしなければなりません。
遺産分割協議を行うためには、父の遺産を調べ、それを相続人の誰がどれを相続するのか決める必要があると聞いております。
遺産を調べると言ってもどこから手をつければよいのでしょうか?
遺産とは
遺産とは、被相続人が残した財産及び権利並びに義務の総称で、「相続財産」ともいいます※。
財産及び権利並びに義務の総称ということからわかるようにプラスの財産及び権利も遺産ですし、債務のようにマイナスを表す義務(債務)も遺産となります。
遺産分割協議書は、遺産のうち、
・どの遺産を
・誰がどれを
相続するのかを全ての相続人で話し合った結果を記録して残す文書ですから、原則として全ての遺産が記載されている必要があります。
そもそも遺産がどのくらいあるか具体的にわからなければ、話し合いになりません。
また、相続税の申告書においても申告時に判明している相続財産は全て記載しなければなりません。
もし、判明しているのに記載が漏れているということであれば、税務署の調査が入り、重加算税まで課税されることにもなりかねません。
※以下では遺産のことを相続財産とよびます。
相続財産の種類
相続財産はその種類に応じて調査のしかたも異なりますので、その種類をおさえ、種類ごとに調査していくと時間の短縮につながります。
相続人が複数人いる場合には、
長男は不動産の調査
二男は現金預貯金の調査
長女は有価証券の調査
・・・
と役割分担してもよいかもしれません。
相続財産の種類は概ね以下のとおりです。
7.は厳密には相続財産とはいいませんが、7.は相続税法の規定により相続財産と「みなされ」ていること、11.は10.と同じく一定の場合には債務控除の対象となること、12.は一定の場合には生前贈与加算の対象となることから、本稿では相続財産に含めています。
1.不動産
2.有価証券
3.現金
4.預貯金
5.動産
6.債権(未収金)
7.死亡保険金
8.退職金
9.生命保険(損害保険)契約に関する権利
10.債務
11.葬式費用
12.贈与財産
相続財産を調べるときのポイント
上記の種類ごとに調べる事項は異なるのですが、共通して重視しなければならないポイントがあります。
それは、
「極力、相続財産を漏れなく把握する」
です。
極力、相続財産を漏れなく把握する
相続財産の調査というと、すぐに
「路線価はいくらか?」
「預金はどのくらいあるのか?」
「被相続人が経営していた会社の株式はいくらか」
など、評価や残高に目が向きがちです。
これはこれでとても大事なのですが、相続税の計算や遺産分割協議を行ううえで最も重要なのは被相続人の相続財産を漏れなく把握することです。
もし、相続財産が漏れたまま相続税の申告を行った場合、後日税務署等から追徴課税が行われる可能性が大きくなります。
税務調査の通知後に追徴課税が行われた場合、漏れていた相続財産に対応する相続税本税だけではなく、罰金のような加算税や利息のような延滞税も課税されます※。
特にタンス預金や動産など、丁寧に調べれば把握できる相続財産が漏れている場合、加算税の中でも特に重い重加算税が課税され、延滞税も重くなることがあります。
また、相続人の間でもめていてお互いに疑心暗鬼になっている場合、「まだ隠しているのではないか」と疑われ、遺産分割協議がまとまらないということもあります。
※加算税及び延滞税
一旦申告をし、税務調査の通知を受けた後に修正申告(申告のやり直し)を行った場合、5%又は10%(一定の場合には10%又は15%)の過少申告加算税が課税されますが、相続財産の漏らした事由が仮装隠ぺいした事実によるものであると認められる場合には原則35%の重加算税が課税されます。
これに加えて、延滞税がかかります。
延滞税は法定納期限(※1)の翌日から完納する日までの利息に類似する税金で、納期限までの期間及び納期限の翌日から2月を経過する日までの期間については、年「7.3%」と「延滞税特例基準割合(※1)+1%」のいずれか低い割合を適用することとなります。
納期限の翌日から2月を経過する日の翌日以後については、年「14.6%」と「延滞税特例基準割合(※1)+7.3%」のいずれか低い割合を適用することとなります(※2、※3)。
(※1)相続税の法定納期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
(※2) 延滞税特例基準割合とは、各年の前々年の9月から前年の8月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合をいいます。
特例基準割合は、令和6年1月1日~令和6年12月31日までの期間については年1.4%です。
(※3)期限内申告書の提出後1年以上経過して修正申告又は更正があった場合(重加算税が課された場合を除く。)には、法定納期限から1年を経過する日の翌日から修正申告書を提出した日又は更正通知書を発した日までは延滞税の計算期間から控除されます。
なお、重加算税が課税された場合は、上記の延滞税の計算期間の控除はなく、納期限の翌日から完納する日までの期間に対する延滞税をまるまる支払わなければなりません。
相続した不動産の調べ方
不動産については、被相続人が、
どこに
どのくらいの
土地又は建物を所有していたのかを手掛かりを探すのがポイントです。
不動産は財産の中でも重要度が高いと考えられていることから被相続人において不動産関連の書類は封筒やファイルに入れてひとまとまりで保管していることが多いようです。
まずはその封筒やファイルを探し出すのが効率的かと思います。
固定資産税課税明細書
相続した不動産は、不動産が所在する各自治体から被相続人に送られてくる固定資産税課税明細書(固定資産税評価明細書)が手掛かりとなります。
固定資産税課税明細書には、その市区町村に所有している被相続人名義の土地建物が記載されていますので、網羅的に把握できます。
また、記載されている地番、家屋番号は登記されている地番、家屋番号と一致しますから土地建物の登記情報、公図、地積測量図、建物図面・各階平面図も取得でき、不動産評価の基礎資料となります。
詳しくは、「二刀流ブログ第3回 「固定資産税評価明細書は不動産評価のトップバッター」をあわせて読んでいただけると理解が深まると思います。
固定資産税課税明細書がない場合
固定資産課税明細書がない場合、どうしたらよいでしょうか?
被相続人との生活の中で、「〇〇村に別荘があった」などの記憶があれば、その記憶が手がかりとなります。
また、被相続人が固定資産税を振替納税していた場合は、預金通帳に引き落としの記録がありますので、これを手掛かりとすることができます。
また、固定資産税課税明細書はなくても、不動産関連書類を入れた封筒などのなかに権利証、登記簿、登記申請書類、地図、公図、地積測量図、建物図面・各階平面図が入っていることがありますので、古いからと言って切り捨てるのではなく、丁寧に調べることが重要です。
その結果、把握していなかった不動産が出てくることがあります。
※東京都の固定資産税の口座振替日(令和6年)
第1期:令和6年7月1日
第2期:令和6年9月30日
第3期:令和6年12月27日
第4期:令和7年2月28日
※横浜市の固定資産税の口座振替日(令和6年)
第1期:令和6年4月30日
第2期:令和6年7月31日
第3期:令和7年1月4日
第4期:令和7年2月28日
※川崎市の固定資産税の口座振替日(令和6年)
第1期:令和6年4月30日
第2期:令和6年7月31日
第3期:令和7年1月6日
第4期:令和7年2月28日
相続した不動産の手掛かりを得た後の調べ方
相続した不動産の手掛かりを得た後は、固定資産税課税明細書があるかないか、あっても固定資産税課税明細書に被相続人名義の不動産が漏れなく記載されているのか、そうでないかにより異なります。
相続税の申告を税理士事務所に依頼する場合
相続税の申告を税理士に依頼する場合は上記の手掛かりを税理士に提出すれば、不動産については税理士の方で滞りなく相続税の評価、申告までやってくれると思います。
当事務所でもお客様には上記の手掛かりを探してもらうことに専念していただき、その後の評価、申告は当事務所に丸投げしてもらっています。
固定資産税課税明細書がない場合の調べ方
固定資産税課税明細書がない場合は、手掛かりとなる登記事項(登記簿)や権利証などの記載をもとに、そこに記載されている市区町村から名寄帳を取得します。
その後の調査方法は、「固定資産税課税明細書に漏れがない場合」、「固定資産税課税明細書に漏れがない場合」をそれぞれ「名寄帳に漏れがある場合」、「名寄帳に漏れがない場合」と読み替えてもらえれば同じ調べ方となります。
固定資産税課税明細書(名寄帳)に漏れがない場合の調べ方
固定資産税課税明細書(名寄帳)に漏れがない場合には、
固定資産税課税明細書(名寄帳)の記載内容をもとに、
登記事項
公図
地積測量図
建物図面・各階平面図
など※
を法務局で取得します。
※共同担保目録、信託財産目録、地役権図面
固定資産税課税明細書に漏れがある場合の調べ方
市区町村によっては固定資産税課税明細書(名寄帳)に公衆用道路のような非課税財産を記載しないところがあります。
このことを当事務所では「固定資産税課税明細書(名寄帳)に漏れがある」と呼んでいます。
固定資産税では公衆用道路は非課税で評価額は0円なのですが、やっかいなことに相続税では原則として通り抜けができる道路ではない限り、評価し、それに応ずる相続税を納付しなければなりません。
当初申告で漏れていれば、重加算税が課税されることはほとんどないと思われますが、過少申告加算税や延滞税も課税されてしまします。
従って、この場合は被相続人名義の全ての不動産が記載されている書類を役所で発行してくれるのであれば取得し、そのうえで登記事項などを入手する必要があります。
固定資産税課税明細書(名寄帳)に漏れがある場合の落とし穴
固定資産税課税明細書(名寄帳)に漏れがある場合でも、あらためて被相続人名義の全ての不動産が記載されている書類を取得できればよいのですが、市区町村によっては、公衆用道路のような非課税財産をそもそも把握していないところがあります。
この場合は致しかたないのですが、公衆用道路は有効宅地と一体として取引される私道であることが多いので、共同担保目録や有効宅地が接面している私道の登記事項を調べるざるを得ません。
私道の筆が多岐にわたる場合、時間的にも金銭的にも負担がかかるのですが、追徴課税のリスクを減らすためには仕方がありません。
固定資産税課税明細書に漏れがある場合の公図の例
©新富税理士・不動産鑑定士事務所
コメントをお書きください