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Q2 土壌汚染の疑いがある土地と現実の不動産市場及び相続税評価との関係

いつも二刀流ブログをご覧いただきありがとうございます。

 

二刀流ブログ第11回「これであなたも相続税評価の達人になれる 土壌汚染地その2」へのコメントでご質問をいただきましたのでご回答させていただきます。

 

このブログでは、各回の一番下にコメント欄が設けてあります。

質問、感想がある方はお気軽に投稿していただけますと幸いです。

 

通常のお問い合わせなどは個別にメールで対応させていただいておりますが、

実務上参考になると思われますご質問については、今回のように1コマを設けて回答させていただいております。

■質問


いつも楽しく拝読しております。
はじめてのコメントで質問させていただいてもよろしいでしょうか。
相続税評価では、
・土壌汚染が判明している土地→「値引き」あり
・土壌汚染の疑いがあるが、判明はしていない土地→「値引き」なし
ということがよく分かりました。
現実の不動産市場でも、土壌汚染の疑いがあるだけで、土壌汚染が判明していない土地の取引では値引きしないものなのでしょうか。

 

二刀流ブログ第11回「これであなたも相続税評価の名人になれる! 土壌汚染地その2」へのコメント)

■回答


現実の不動産市場では、土壌汚染の疑いがあるだけで、土壌汚染が判明していない土地の取引であってもなんらかの値引きはなされる可能性があると思われます。

ただし、これがあてはまるのは売り手と買い手がどちらも合理的である場合であって、個々の取引では売り手のおかれた事情、買い手のおかれた事情などに大きく影響されます。

 

売り手において売らなければならない事情が強く、買い手においてそこまで買う事情が強くないのであれば、土壌汚染の疑いがあるだけでも相当の値引きがなされると思われます。

逆に、買い手において買わなければならない事情が強く、売り手において売らなければならない事情が弱ければ、値引きされない、あるいは、値引きされてもその幅は小さくなると思われます。

その他売り手と買い手がその土地についてもっている情報の量、不動産についてもっている知識の量などでも変わってくると思われます。

■解説


 現実の不動産市場においては、土壌汚染の疑いがある土地であっても、売り手、買い手双方に次のようなリスクがあると考えられます。

 

【売り手のリスク】

(1)土地に汚染があり、買い手に損害があった場合には、瑕疵担保責任を負う

(2)買い手への説明義務違反で訴えられる可能性がある

(3)買い手から錯誤無効を主張され、売買そのもが無効になる可能性がある

 

【買い手のリスク】

(1)土地が汚染されていた場合、土壌汚染対策を行う必要があると考えられるが、その費用の予測が困難であるほか、周辺の土地に土壌汚染被害をもたらしている場合には、周辺の土地の所有者にも責任を負う必要がでてくる

(2)土壌汚染対策が終わったとしても風評被害などにより思ったように土地が転売できない可能性がある

 

従って、売い手と買い手がどちらも合理的(※1)であれば、土壌汚染の疑いがある土地であっても、売り手、買い手双方に値引きのインセンティブがあります。

 

しかし、このリスクを売り手と買い手のどちらが多く(少なく)負担するかは当事者それぞれが抱えている事情などで変わってきます。

 

例えば、売り手が経済的に困窮しており、借入金の返済も迫られ、やむを得ず売らなければならないのであれば、値引き幅は大きくなるでしょう。

一方、その土地が買い手の土地の隣にあって、一緒に使うと一体地の利用方法が大きく上昇する(例えば大規模なマンション用地の一部にするなど)のであれば、買い手は上記のリスクをある程度負担しても買う価値があると考え、値引き幅は小さくなるでしょう。

また、買い手が土壌汚染のリスクについてあまり知識がない場合、取引に先立ち土壌汚染の疑いの説明を受けたとしてもかえって高い価額で取引するかもしれません。

 

このように実際の不動産市場では、値引きすることが合理的であっても、当事者の事情で値引き幅が大きくなったり、小さくなったりすることがあります。

 

しかし、合理的な売買当事者を前提とすれば、値引きのインセンティブになると考えられます。

 

ここで以下の疑問が生じてくると思います。

 

「不動産実務では、不動産の疑いがある土地でも値下きのインセンティブとして考えられているのに、なぜ、相続税評価では値引きが認められないのか?」

 

確かに、相続財産の評価は時価によるものとされており、現実の不動産市場で値引きされるのならば、土壌汚染の疑いがある土地についても相続税評価額の値引きがされるべきだという考え方もあると思います。

 

しかし、相続税も税金のひとつである以上、適正、公平な課税が要請されており、時価評価が原則とはいえ、その価額は原則として客観的な交換価値を示すものでなければならないと考えられているため、値引きは認められていません。

 

確かに、土壌汚染の疑いがある土地であることによる値引きは現実の不動産市場で行われているのでしょうが、これを客観的に見積もることができるかというと非常に困難であるといわざるを得ません。

 

合理的な売り手及び買い手の立場から土壌汚染の疑いがある土地であることによるリスクを売買価格に反映させるとすれば、値引き額は、以下の算式であらわすことができると考えます。

 

〔(1)+(2)+(3)+(4)〕×〔土壌汚染地である可能性(%)〕

 

(1)Phase2及びPhase3の土壌汚染調査費用(※2)

(2)土壌汚染対策費用相当額

(3)(1)を除く買主への損害賠償見込額

(4)周辺地への損害賠償額相当額×周辺地が被害を受けている可能性

(5)風評被害などにより見込まれる値下げ額

 

しかし、上記の算式は客観性の点で以下のような問題をかかえています。

 

(1)詳細な土壌汚染調査(Phase2及びPhase3)をしていないのに客観的な土壌汚染対策費用を算出することは困難である

(2)自己所有地の土壌汚染の状態が判明していないのに、周辺地への影響を客観的に見積もることは困難である

(3)風評被害がどの程度ひろがっていくのか見積もることは困難である

(4)土壌汚染地である可能性そのものを客観的に計測することは困難である

 

とくに(4)の問題点は極論すれば土壌汚染地である可能性は1%~99%の間にあればよい(※3)わけで、土壌汚染対策費用が多額にのぼることを考えると、評価額にとても大きな開きが生ずることになります。

 

これでは、客観的な交換価値を算出し、適正、公平な課税をすることが困難になってしまうと考えられます。

 

相続税法22条は、相続財産等の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨規定していますが、税金である以上、単なる時価だけではだめで、客観的な根拠がある時価である必要があるということが求められているということです(※4、※5)。 

※参考


※1:不動産鑑定評価基準では、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場の条件として以下の条件をあげています。

(1)市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であるこ と。

なお、ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。

① 売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。

② 対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。

③ 取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしている こと。

④ 対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。

⑤ 買主が通常の資金調達能力を有していること。

(2)取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引した りするような特別なものではないこと。 

(3)対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。

(不動産鑑定評価基準第3節Ⅰ1.(1)、(2)、(3))

 

※2:土壌汚染の疑いがある土地と判明しているということは、Phase1の土壌汚染調査は既におこなっているとみることができます。

 

※3:数式で示すと以下のとおりです。

0%<〔土壌汚染地である可能性〕<100%

 

 

※4:不動産鑑定士が独自調査により土壌汚染の疑いがある土地であるとして値引きした不動産鑑定評価書に基づく値引きを否認した平成28年6月27日裁決では次のように述べています。

相続税法第22条《評価の原則》は、相続財産等の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは、課税時期における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。

平成28年7月4日裁決にも同じ趣旨の記載があります。

 

※5私見ですが、今後土壌汚染の疑いのある土地の取引について、値引き額が客観的にわかるようなしくみができれば、相続税評価でも値引きができる可能性がでてくるかもしれないと考えています。

具体的には不動産鑑定士が取引事例比較法の適用で使っている取引事例のアンケート形式の整備、分析、分析結果の公表をしていくのが近道なのではないでしょうか。

不動産鑑定業界の奮起を期待したいものです。

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