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二刀流ブログ第13回 「これであなたも相続税評価の名人になれる 土壌汚染地(その4)」

■質問


私の父は、50年前からクリーニング店を営み、母と二人三脚で長男である私と妹の二人の子供を育てあげてくれました。

 

クリーニング店は、私鉄O線A駅から徒歩15分程度の起伏に富んだ住宅街に所在し、そこで母がとりつぎを、父がクリーニング作業を行っていました。

A駅は都心まで急行利用で50分程度で行けることから、周辺の人口も増えつづけ、クリーニング店も繁盛し、わずかではありますが、作業場も大きくなっていきました。

 

しかし、しだいにお客さまである住民の方々の高齢化が進み、ワイシャツ、スーツなどのビジネス関連の需要がじょじょに減りはじめました。さらに10年前くらいからは足腰に負担のかからない利便性の高い都心型マンションや介護施設などにうつる方々も増え、さらに経営はきびしくなってきました。

そのうえ昨年のはじめに父にがんが発見され、昔のようにバリバリ働けなくなってきました。

 

そこで、父はクリーニング店を閉じる決心をし、クリーニング店の土地建物を売却することにしました。

知り合いの不動産業者に相談したところ、周辺の土地利用状況や景気を考えるとクリーニング店として売るのは難しく、戸建住宅を分譲するハウスメーカーに売るのが最もよいだろうということで戸建住宅開発用地として売却することにしました。

 

しかし、閉じるにあたってはクリーニング店が土壌汚染対策法の特定有害物質使用特定施設だったため、いわゆる「土壌汚染地」であるかどうかについて指定調査機関の調査をしなければならなくなりませんでした。

調査をしたところ、排水溝を中心にトリクロロエチレンが基準値を上回っていることがわかりました。

 

その後しばらくして父のがんが悪化し、今年の6月に亡くなりました。

父の主な遺産はクリーニング店の土地(土壌汚染を考慮しない路線価評価額6,000万円)と建物(500万円)、自宅の土地(路線価評価額3,000万円)と建物(200万円)、預金が500万円です。

遺品を整理していたところ、クリーニング店の土地建物の権利証とともに指定調査機関が土壌汚染調査の内容について報告した「環境調査報告書」と同じ機関が作成した土壌汚染対策工事費用の見積書(見積額2,000万円)がでてきています。

預金が少なく、納税のためにクリーニング店の土地建物の売却は父の考えどおり進め、戸建住宅を分譲するハウスメーカーと売買契約をむすびました。

売買契約書では

1.本件土地の売買代金の最終金は2,000万円とする

2.買主が造成・建築工事を着工し、その造成・建築工事の障害となり得る地中埋設物、土壌汚染が存在しないことが確認された後、最終金2,000万円を支払う

3.本件土地について土壌汚染、地中埋設物等隠れた瑕疵が発見された場合は、売主の責任と負担において解決するものとする

と書かれており、実際に最終金の決済・物件の引き渡しにむけ土壌汚染対策工事が進められています。

 

このような状況のなかでもクリーニング店の土地の相続税評価額は土壌汚染対策費用などを引いてはいけないのでしょうか。

■これまでのあらすじ

これまで、

1.土壌汚染とは:二刀流ブログ第10回

2.土壌汚染の影響を値引きできる土地とは:二刀流ブログ第11回

3.土壌汚染地の値引き額(不動産実務):二刀流ブログ第12回

について説明していきました。

 

その結果、ご質問の土地は土壌汚染地であり、評価にあたり「値引き」できる土地であること、不動産実務での「値引き」額は

・Phase3の内容の土壌汚染調査及び見積に要する費用

・法的側面、経済的側面から合理的と認められる土壌汚染対策費用

・(土壌汚染対策が部分対策である場合の)使用収益制限による減価

・スティグマ(Stigma)

の合計額であることをご紹介しました。

 

いよいよ、ここから土壌汚染シリーズの一応の締めくくりとして、相続財産の中に土壌汚染地がある場合にその相続税評価額をいくら「値引き」すればいいのかについて解説していきます。 

■土壌汚染地であることによる値引き額(相続税評価)


考え方はこれまで二刀流ブログ第12回でご紹介した不動産実務と同じです。

 

国税庁から出ている「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」(以下、「情報」といいます。)によれば、土壌汚染地の評価額は次の算式で評価します(※1)。

■浄化・改善費用(土壌汚染対策費用)に相当する金額


浄化・改善費用とは、土壌汚染対策として、環境省で示している土壌汚染の除去、遮水工封じ込め等の措置を実施するたするための費用をいうと情報では説明しており、不動産実務でいう土壌汚染対策費用のことです。

 

ここで注意すべきは、不動産実務と同じく、法的側面及び経済的側面から合理的と見込まれる土壌汚染対策に要する費用相当額を「値引き」するということです。

 

つまり、

法的側面及び経済的側面から検討して、完全対策を行うことが合理的であれば、完全対策費用相当額(完全な浄化・改善費用相当額)を控除する。

法的側面及び経済的側面から検討して、部分対策を行うことが合理的であれば、部分対策費用相当額(部分的な浄化・改善費用相当額)を控除する。

ということになります。

 

ただし、汚染がないものとした場合の相続税評価額は地価公示レベルの80%相当額(※2)となることから、控除すべき浄化・改善費用についても見積額の80%相当額を浄化・改善費用に相当する金額とするのが相当であるとされています。

■使用収益制限による減価に相当する金額


使用収益制限による減価に相当する金額とは、浄化・改善措置のうち土壌汚染の除去以外の措置を実施した場合に、その措置の機能を維持するための利用制限に伴い生ずる減価をいうと情報では説明しています。

浄化・改善措置は土壌汚染対策ですので、情報でいう土壌汚染の除去の措置は不動産実務でいう完全対策を指し、土壌汚染の除去以外の措置は部分対策を指していると考えられます。

 

完全対策をするのであれば、その土地を自由に利用することができますので、使用収益制限による減価に相当する金額を控除する必要はありません。

一方、部分対策をとるのであれば、駐車場や資材置場といった建物以外の利用に限定されるなど、土地の使用収益が制限されますので、その制限される分については「値下げ」するという意味であると考えられます。

 

つまり、

完全対策をして自由に使える土地として取引するのが合理的⇒使用収益制限による減価に相当する金額を控除しない

部分対策をして駐車場や資材置場として取引するのが合理的⇒使用収益制限による減価に相当する金額を控除する

となります。

 

ここでも、汚染がないものとした場合の相続税評価額は地価公示レベルの80%相当額となることから、控除すべき使用収益制限による減価を現実の不動産市場における時価ベースで査定するのであれば、その80%相当額が値引きの対象になると考えられます。

■心理的要因による減価に相当する金額(スティグマ)


心理的要因による減価とは、不動産実務でいうスティグマのことです(二刀流ブログ第12回参照)。

情報では、土壌汚染の存在(あるいは過去に存在した)に起因する心理的な嫌悪感から生ずる減価をいうとされています。

 

もう少しかみくだいてみると現在土壌汚染地であったり、過去に土壌汚染地であったことによる負のイメージといえるかと思います。

 

例えば、

1.その土地は以前、要措置区域に指定されており、これを解除するために完全対策を行って当該区域の指定は解除されたものの、過去に土壌汚染地であったとの負のイメージがある。

2.その土地は、形質変更時要届出区域に指定されているが、部分対策にとどまっており、依然として不安が残っている。

3.その土地は、要措置区域、形質変更時要届出区域に指定されているが、完全対策、部分対策ともに行われておらず、不安がある。

がその例としてあげられます。

 

ここでも、汚染がないものとした場合の相続税評価額は地価公示レベルの80%相当額となることから、控除すべきスティグマを現実の不動産市場における時価ベースで査定するのであれば、その80%相当額が「値引き」の対象になると考えられます。

■浄化・改善費用が確定している場合の取り扱い


以上が相続税評価における「値引き額」の考え方ですが、被相続人が亡くなった時(相続税の課税時期)において、土壌汚染対策費用が確定している場合には、既に土壌汚染対策をすることが確定しているので、その土壌汚染対策費用の額は土地の評価額から「値引き」するのではなく、被相続人が相続開始時において負担することが確実な債務として、課税価格から控除します(※3)。

このとき、評価対象地は土壌汚染対策が終わった土地として評価します(※4)。

 

土壌汚染対策費用が確定するケースとして考えられるのは、

1.その土地について都道府県知事から汚染の除去等の命令が出され、それに要する費用の額が確定しているケース

2.相続開始時において土壌汚染対策に着手している土地で既に土壌汚染対策費用の額が確定しているケース

があげられます。

 

なお、債務として計上できる額は、あくまで、相続開始時で未払になっている金額であること、助成金が交付される場合には助成金は含めないことに注意する必要があります(つまり被相続人の財布から出るべきであった分だけです)。

■土壌汚染地の「値引き」額の査定フローのイメージ


土壌汚染地である場合に、「値引き」額をどのように査定していくかをイメージであらわすと、以下のとおりです。

■土壌汚染地評価の落とし穴


土壌汚染地であれば、相続税評価においても「値引き」はできると認められますが、以下の点で落とし穴がありますので注意しましょう。

 

1.土壌汚染対策の検討、費用の査定には専門家(指定調査機関)の意見が必要である

土壌汚染であることの判定にも指定調査機関によるPhase2の内容の土壌環境調査が必要ですが、具体的にその土地のどこに土壌汚染があって、どの程度の土壌汚染対策が必要なのか、費用はどのくらいかかるのかについても実際に土壌汚染対策に携わっている専門家(指定調査機関)でなければわかりません。

情報でも、「浄化・改善費用については、現段階では、様々な手法、技術等が研究されている状態であり、標準的な手法、技術等が確立されていない。したがって、標準的な浄化・改善方法に基づき、これに要する費用相当額を定めることができないので、当面は、土壌汚染対策法第13条に規定している(現文ママ)指定調査機関の見積もった費用により計算せざるを得ない」と考えられるとしています。

そして、その見積にはPhase3の内容の土壌状況調査が必要なわけですから、相当の費用が発生することを覚悟しなければなりません(※5)。

 

2.スティグマを客観的に査定することは困難である

 スティグマは、現在土壌汚染地であったり、過去に土壌汚染地であったことによる負のイメージです。

イメージですから、人それぞれで違うのは当たり前ですし、わが国では土壌汚染が「値引き」の対象と認識されるようになってから短く、取引事例の集積自体おぼつかない状態のためこれを数値として一律に算出することは困難です。

また、個別に土壌汚染の程度、土壌汚染対策費用見積額、その土地の周囲の状況などからスティグマを算出しても、「客観性」を建前とする相続税のもとでは、国税当局からエビデンス不足で否認される可能性が高いと思われます。

従って、相続税評価では、

スティグマ=0円

とせざるを得ないと考えられます(※6)。

 

3.土壌調査調査費用は「値引き」できるのか規定がない。

情報では、相続開始時点においてPhase3の内容の土壌汚染調査及び見積が終わっていない場合に、それに要する費用を「値引き」できるのか規定がありません。

おそらく、相続開始時において、土壌汚染地であることがわかっているのであれば、上記の調査も終わっているはずだということなのでしょうが、相続開始時においてPhase2の内容の調査しかしていないことも十分あり得ますので、土壌汚染対策の付随費用として「値引き」の対象にしてもいいのではないかと個人的には考えています。

■あてはめ


以上から■質問における土地の相続税評価額は、土壌汚染調査及び見積に要する費用は被相続人の死亡の前に支払済み、スティグマは客観的に査定できないので0円とすると、

 

土壌汚染がない場合の土地の相続税評価額:6,000万円

土壌汚染調査費用相当額:0円

浄化・改善費用に相当する金額相当額:2,000万円×80%=1,600万円

使用収益制限による減価相当額:0円×80%=0円

スティグマ相当額:0円×80%=0円

 ですから、

 

6,000万円(土壌汚染がない場合の土地の相続税評価額)-0円(土壌汚染調査費用相当額)-1,600万円(完全対策費用相当額)-0円(使用収益制限による減価相当額)-0円(スティグマ)=4,400万円

 

となります。

■参考


※1:「土壌汚染地の評価等の考え方について」(以下、「情報」といいます。)

 資産評価企画官情報第3号、資産課税課情報第13号(平成16年7月5日国税庁課税部資産評価企画官資産税課)で紹介している原価方式を参考に記載しています。

 

※2:地価公示法に基づいて、国土交通省土地鑑定委員会が適正な地価の形成に寄与するために、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するもので、時価の指標といわれています。路線価は地価公示価格の80%程度を目安に設定するものとされています。

私見としては、土地の価格は経済状況によって大きく変動することから80%水準で評価するというのはわかるのですが、土壌汚染調査費用の見積もりは専門家である指定調査機関がかなりの精度で査定するものです。従って、経済状況で簡単にブレるものではないともいえ、こちらも80%相当額でしか控除しないというのはいかがかなものかと思っています(当局や裁判所などにいわせれば「独自の見解」と切って捨てられるのかもしれませんが。。。)

 

※3:相続税法第13条、14条

確実な債務といっていますので、80%をかけずに100%で計上すると考えられます。

 

※4:完全対策が義務であれば、自由に使える土地として評価し、部分対策までが義務であれば、駐車場や資材置場としてしか使えない土地として評価する(自由に使える土地としての評価額から使用収益制限による減価を控除「値引き」する)ことになります。

 

※5:土壌汚染対策を強制される場合には、調査・見積も必ず行うでしょうが、任意の場合には、調査・見積の主な目的が相続税評価の「値引き」となることも十分に考えられます。その場合、調査・見積に要する費用が多額にのぼり、相続税評価の「値引き」による相続税の減少額が少ないのであれば、調査・見積はせずに高い評価・高い相続税額に甘んじなければならないこともあり得ると考えられます。

土壌汚染地なわけですから、不動産取引の現場では「値引き」されるのは客観的にわかっているのに、客観的に「値引き額」を算定できないので、高い相続税を支払わされる。

高い値引きはできないけれども、区分地上権の評価における簡便法(地下鉄等のずい道の所有を目的として設定した区分地上権を評価するときにおける区分地上権の割合は30%とすることができます)のように、たとえば5%や10%といった割り切った値引き率でもよいから示してあげればよいのにと個人的には思います(財産評価基本通達27-4など)。

 

※6:情報では、スティグマについて次のように述べています。

「これまで、その減価の割合等が公表されたことはなく、一般に数値化することは困難であり、取引の実例もほとんどないことから、それを基に標準化することは困難である。また、措置の内容(除去措置済み、又は封じ込め等の措置済み)に加えて措置前か措置後かによっても減価の程度が異なり、さらに措置後の期間の経過によっても減価の程度が逓減していくとも考えられることから、一律に減価率を定めることも相当ではない。したがって、当面は個別に検討せざるを得ないと考えられる。」

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